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自由と安全をいかにバランスさせるのか?山谷剛史『中国のインターネット史』を読む

2015年02月25日

畏友・山谷剛史さんの新刊『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』が本日(2015年2月25日)発売されました。献本もいただきましたので、ざっくりご紹介をば。

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出版社サイトで試し読みあり。
*3月7日に東京で著者と編集者によるトークショーあり。詳細はこちら

山谷剛史さんは「アジアITライター」。今でこそニセiPhoneや中華スマホ、さらにはネット検閲などの中国のIT事情というのはそれなりに報じられるようになりましたが、山谷さんは前世紀からこつこつと仕事を続けております。愚直にIT事情を追いかける姿勢はもはや奇人レベルに達しています(褒め言葉)。
 

たとえばこちらの記事「カンボジアで和式ニートに出会う」では、カンボジアのド田舎農村にまで分け入って、ノートPCで海賊版DVDを楽しむニートを探しているという……。

で、その畏友・山谷剛史さんが星海社新書から著書『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』を出版されました。

目次
第1章 中国ITの原風景 ~1995
第2章 中国におけるインターネットの幕開け 1994~2002
第3章 コミュニケーションと反日の並 2003~2005
第4章 Web2.0の波と北京オリンピック 2006~2008
第5章 SNS普及とネット検閲の強化 2009~2011
第6章 微博の輝きと時代の転換 2012~2013
第7章 ワールドワイドウェブからの独立 2014~

目次を見れば一目瞭然。書名が示すとおり、編年体で中国インターネットの歴史を追う王道の構成です。山谷さんは恐らく中国IT関連の記事を1000本以上書いてきたわけですが、それが時系列で並べられた様は濃厚そのもの。私も通読していろいろ気づきをいただきました。

例えば経済について。中国ITのトレンドは今、BAT(検索の百度、ECのアリババ、ゲームとスマホ向けSNSのテンセント)という三国志時代を迎えているのです。三強のあまりに強力な現状を見ているとはるか古代からこの体制が続いているように錯覚してしまうわけですが、実はこの10年の間に4大ポータル時代とか、百度とグーグルの検索覇権戦争とか、3Q大戦とか、激しい戦争と栄枯盛衰がありました。このあたりを時系列で解説してくれている便利な本は今までなかったわけで、どういう歴史が現状を築いたのかを教えてくれるありがたい仕組みとなっております。

また政治についてもちょっぴりスパイスが利いた切り口が魅力です。よく知られているとおり、中国は強力なネット検閲を導入しているわけですが、本書はネット黎明期から中国政府は着々と取り組みを進め、今の体制を築いたことを明らかにしています。「中国政府の悪の智慧はいかに深淵であるのか!」と嘆くのは簡単なのですが、しかしイスラム国問題が注目を集める今、むしろ逆に日本はどのようなネット安全保障を擁しているのかが問われる時代ともなっています。

スノーデン事件によって米国のネットもまた純真無垢とはほど遠いことが明らかになりました。自由か否かの二者択一ではなく、自由と安全をいかにバランスさせるかが問われるのが現在です。中国のネットは「安全」に全ポイントをぶっこんだいびつな世界ではありますが、しかしその世界がある意味、完成されていること。がちがちの検閲の中で暮らす中国ネットユーザーの大半は、検閲の存在にすら気づかず楽しく暮らしていることを本書は示しています。日本がどこに基準点を置くのか、それを考えるためにも中国は格好の材料と言えるでしょう。

というわけで気になった方はぜひご一読を。出版社サイトでウェブ試し読みもできます。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. うがやん
    • 2015年03月02日 06:22
    • インターネットでインド人を見かけないの何故でしょう。自分のシマがあるはずの中国人はそこかしこで見かけるのに。山谷さんにはインド版の通史も期待です。すごいぞ歴史家みたいだ。

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