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バングラデシュ情勢が不安定化、独裁色強める与党と暴力的抵抗路線に転じた野党(田中)

2015年03月16日

バングラデシュが再び不安定化

バングラデシュ情勢は2015年に入り、再び不安定化している。1月5日、BNP(バングラデシュ民族主義党)率いる野党連合は選挙のやり直しを求めて集会を開こうとしたが、政府が認可を出さなかったため、無期限道路封鎖を宣言。政府側はBNP党首カレダ・ジアの自宅まわりに大量の警官隊を配備。実質上の軟禁状態においている。

この1月5日は2014年に行われた総選挙から一周年となるタイミングだった。昨年の選挙でボイコットを宣言し不戦敗を喫したBNPと野党連合。「国民全員が参加できる選挙を求め」て、選挙のやり直しを政府にせまっている。一方で「不参加という意思表明をして、国民の政治参加の機会を奪ったのは野党の責任」と政府は意に介していない。意見の咬み合わない与野党の対立は終わりなき政争を産み出してしまった。

World Class Traffic Jam
World Class Traffic Jam / joiseyshowaa


その結果始まったのが道路封鎖だ。BNPは昨年、ホルタル(ゼネスト)では民衆の支持を得られなくなったと無期限停止を宣言したが、政治手段を変えることは難しかったようだ。ベンガル語に「犬の尾がまっすぐになることはない」ということわざがある。人間の習性はそう簡単に変わらないという意味だ。まさにこのことわざどおりとなった。


ホルタルと道路封鎖

バングラデシュでおなじみのホルタルであるが、今回の宣言は道路封鎖である。時折、ホルタルも別々に宣言されている。ホルタルはストライキなので生産活動のサボタージュが本来の活動となる。一方、道路封鎖は文字通り交通の遮断を行う。こちらのほうが積極的に政府に対して反抗活動をやる意味合いとなる。ただし、具体的な活動ではどちらでも大差はない。

3ヶ月におよぶ道路封鎖の実態は、まず、一般の国民不参加にある。おおくの一般の人々はこの政争に興味を示さず、参加していない。ダッカ市内の道路の往来はほぼ普段どおり。流通の遮断も一部で行われているが、すべてではない。例えばダッカ・チッタゴン間のトラック便の料金が通常の倍になるなど経済はリスクを抱えながら動いている。地方では農産物の流通が遮られていることから価格が暴落、中間業者に買い叩かれる現象がおきている。しかし、それも最初の一ヵ月半ほどで、徐々に拘束力を失ってしまっている。

そんな中、野党の活動は、実質テロ活動に終始していると言っていい。これまでのBNPの反政府運動は抗議集会名やデモなどでそれなりに人員を集めて行っていたが、今回はそうではない。

火炎瓶や手製爆弾を往来のバスや一般車両に投擲する事件が毎日のようにおきていて、死傷者がでている。この2ヶ月半の死者は100人以上。これまではデモの参加者が警官隊に衝突して死者を出してケースが多かった。つまり政治に関わった人たちがなくなっていた。しかし、この2ヶ月半の死者の7割は政治とかかわりのない人々。極めて悪質なテロ行為と言える。


お金がないとデモができない?テロ的活動が生み出された理由

BNPが暴力的な活動を展開するようになった理由は資金難ではないかと考えられる。 バングラデシュでは政治活動の参加者には必ず現金が支給される。 大量の動員をかけた政治活動をやるには膨大な予算が必要である。例えば政治集会やデモ活動にいけば500タカ(約750円)プラス弁当支給がもらえる……といった相場がある。

1000人程度の動員をかけた集会を1回行うだけで100万タカ(150万円)以上の出費は覚悟しなくてはいけない。また政治活動者自身が前に出なくてはいけないので中心人物が逮捕されるおそれも出てくる。

その点、火炎瓶投擲などのゲリラ的活動であれば、当局の監視をくぐり抜けることが確率的に可能である。また、少人数の末端組織で実行可能であるため、低予算でインパクトを出すことができる。このようなテロ活動化した反政府活動になったおかげで、長期に及ぶ反政府活動を継続できるようなったとも言える。

政府はこれに対し、往来の警官隊の配置を増員させ、火炎瓶や手製爆弾の製造工場の摘発なども同時に行っている。アジトのタレコミには報奨金も出すと約束する声明も出している。また野党幹部の通信傍受も行っている新聞報道も出ている。

一方、与党の手がきれいだというわけではない。反政府活動に公然と参加、警官と交戦して死亡した野党幹部がいるがこれはまあ仕方がない部類。野党幹部が何者かに連行されて死体となって発見される事件も複数確認されている。この被害にあった野党幹部はおおくは地方の国立大学の学生団体の所属。昔からバングラデシュでは、学生団体が政治運動の大きな役割を担ってきたが、その若手幹部連中が政府の標的となってきている。


今後の展開

まず、BNPがいつ、道路封鎖の宣言を解除するかどうかが焦点だ。

政府与党がBNPの要求を飲むことはほとんどないいと言っていいだろう。政府にとって選挙を再度行う理由は何もない。BNPが何らかの形でメンツを保ちつつ、折り合える切り口が何も見つからないのが現状だ。欧米諸国からの口利きなども多少あったけれども今回はそれを政府は受け入れる様子もない。そもそも国会議員になるのに10億タカ(15億円)単位の選挙資金が必要なバングラデシュにおいて、1年少々ですぐに選挙をやり直す合理的な理由はどこにもないのだ。

政府としては道路封鎖を解除させるには、BNPの機能停止に追い込むしかない。その最終手段が、党首の逮捕だと考えられる。ただし、このカードの実行にはリスクも伴う。民衆が、カレダ・ジアの逮捕はまかりならぬと動き出せばやぶ蛇である。2月半ば、裁判所より汚職に関する訴訟で出頭命令を無視したとしてカレダ・ジアに逮捕令状がついに発行された。この逮捕命令は、かねてより係争中であった裁判についての処分であるが、このタイミングででるあたり、いかにも下心が丸見えである。しかし、その後実際に逮捕するという動きは見られない。

与党によるアワミリーグによる独裁に近い現状だが、 民衆の怒りにいったん火が着けばコントロールは困難だ。それは歴史が証明している。例えば1989年エルシャド政権末期だ。事実上の軍事独裁政権だったエルシャドだが民衆の怒りによって倒されてしまった。さらにさかのぼれば、現首相ハシナの父シェイク・ムジブル・ラーマンが野党の活動を禁止した時にも民衆は強い反対を示したこともあった。バングラデシュの民衆はここぞという場面では民主主義の意思表示を示してきたのだ。

一方、国際政治との駆け引きも重要なポイントとなる。従来通りであれば、もしBNP党首逮捕となればアメリカが黙っていなかったはずだ。アメリカは1976年にカレダ・ジアの夫、ジアウル・ラーマンが政権をとった際、影の後見役としてBNPを二大政党の一翼として育て上げた。ゆえに歴史的にアメリカはBNPを子飼いとして扱ってきた。

ただしその構図に変化が生じている。先日のオバマ大統領のインド訪問に象徴的だが、アメリカはインドに急接近している。玉突き的に親インド政権であるアワミリーグとも融和的となっているのだ。先日新しく赴任したアメリカ大使は一般の市民を巻き込む形での暴力的な政治活動を強く非難、すべての人々が政治に参加できる状況を作るように呼びかけはしているものの、強い影響力をもたせるような動きはそれ以上取っていない。


独裁色を強める与党政権

現在与党アワミリーグは国会の3分の2以上の議席を占めている。バングラデシュ憲法に従えば、憲法改正に十分な数だ。与党アワミリーグは大胆に憲法を改正している。

現行憲法では国会が裁判官の罷免手続きを行えるよう変更された。三権分立の原則が浸食されてしまったわけだ。 裁判官の罷免も思いのままとなれば逮捕後の裁判の結果も自由に決めることができる状態にあると言っていい。
新聞記者達は政府の監視が強くて自由に記事を書くことができないと嘆いている。インターネットに規制が入り、SNS系のアプリケーションで通話が遮断されるということもあった。

独裁色が強まるバングラデシュ政治。それでも民衆は政治に対してそれほど関心を持っている様子もない。BNPに政権が変わったところで目くそ鼻くそだというのがホンネだ。政治でもめるのはもううんざりで、それよりも日々の経済活動を安心してできる状況を求めている。 
それを見透かしてか、政府は粛々と治安維持の名目で地方に依然として根強く残る野党幹部を暗殺に近い手段で消していく。国会で全く議席を失ってしまったいま、地方で権力とつながらなければ政治活動資金もいずれ枯渇する。そうやって徐々にBNPが力を使い果たすのを待っているようだ。
BNPはこのままではかつてのような影響力をいずれ失うだろう。そうならないようにするためには民衆の声にもう一度寄り添う姿勢を見出すことができるかにかかっている。


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■執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながらも情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. 2323
    • 2015年03月16日 23:59
    • 馴染みの無いバングラデシュ情勢も
      こう纏まってると解りやすい

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