抗日戦争映画「百団大戦」を大ヒットさせるよう、中国共産党・中国政府が指示していたことが明らかとなった。興行収入の必達目標を科された映画館チェーンは、別の映画を見た客も「百団大戦」を見たよう偽装工作したとの疑いも持たれている。
2015年9月3日、北京市で抗日戦争勝利70周年記念・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念の閲兵式が開催される。その力の入れようはまさに異例というしかない。大気汚染改善のために1万2000以上の工場に一時操業停止を命じたほか、近隣農村には「かまど使用禁止令」まで出されたとの噂もある。2週間前から北京市上空に飛行制限空域が拡大される、80万人の治安ボランティアを動員、閲兵式前後のバラエティ番組放送を禁止……などなど、まさに国をあげての一大事と化している。詳細は別稿に譲るが、「反日」などという小さな目的ではなく、より大きな狙いを持った一大プロジェクトなのだ。
この国家的イベントに花を添えるべく登場しているのが抗日戦争映画だ。「百団大戦」「カイロ宣言」「誘狼」「戦火の中のバレー」などの映画が続々と公開される。
その先陣を切った「百団大戦」は27日の公開から3日で9800万元(約18億7000万円)という上々の興行収入をあげた。上映回数では全体の9%に過ぎないのに、興行収入では全体の41%を占めているという超異例の大ヒットになっているという。
中国人民の愛国心たるやすさまじい……と誤解してしまいそうだが、どうやらトリックがありそうだ。ネットで暴露されたのは中国共産党中央宣伝部、今日一句部、国家新聞出版広電総局、全国総工会、共産主義青年団、全国婦女連合会、人民解放軍総政治宣伝部による合同通達だ。簡単にまとめると、「百団大戦」をヒットさせるために各部署は奮闘努力せよという内容で、
・共産主義青年団や労働組合は映画鑑賞会を組織しなさい。なお費用は団費や組合費から支給してよし。
・学校や職場で上映会を開きなさい。
・メディアはがんがん宣伝せよ。
といった具体策が盛り込まれている。組合費をこんなことに使っていいのだろうか。
またネットでは映画館チェーンに興行収入必達目標が科されたとのリーク情報が出回っている。万達チェーンは3800万元(約7億2400万円)、上海聯和チェーンは2500万元(約4億7600万円)といった具合だ。この任務をこなすために映画館チェーンは売り上げごまかしを行っているとの疑惑がもたれている。
中国のSNSでは、上から手書きで別の映画のタイトルが書き込まれた百団大戦のチケットが公開されている。別の映画を見ようとしたら販売窓口でこのチケットを手渡されたのだという。これは「興行収入盗み」としてよく知られている手法だ。一般的に映画は興行収入に応じて制作会社と映画館チェーンが利益をシェアするシステムになっている。そのため映画館がごまかしできないように発券システムは常にチェックされている。そこで別の映画のチケットを発券し、手書きで書き換えた上で代替チケットとして使うという仕組みだ。映画館の予約システムをチェックすると、早朝やレイトショーの「百団大戦」上映回が満席という異常事態となっている。もともと誰も見ないプロパガンダ映画、人が来ない時間に上映した上で、ごまかしテクニックを使って虚構の興行収入をあげた可能性は高そうだ。
なお大手ポータルサイト・新浪網がこの問題を果敢にも取り上げた。すでに記事は削除されているが、
グーグルキャッシュは残っている。取材を受けた国家新聞出版広電総局映画管理局の関係者は、映画館が急増しているため、管理が行き届かず興行収入のごまかしがあることは事実と認めたが、それは「百団大戦」に限らず他の映画にもよくあることと大胆すぎる反論。好成績の理由については「党員や学生が集団で鑑賞しているからでしょう」と組織的動員だからじゃないのと素直な説明をしている。記事が削除されるのも当然という受け答えっぷりである。
さまざまな分野を巻き込む閲兵式狂騒曲、次はどんなネタが飛び出してくるのだろうか。
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