中根研一『
映画は中国を目指す』(洋泉社)を読了。
表紙には「いま世界中が狙う中国映画マーケットに、日本映画はどう立ち向かう?!」の文字が。『
中国「野人」騒動記』など、中国のUMA(未確認動物)研究で知られる中根さんが、ちょっとビジネス寄りの本を書いているの?と驚きつつ読んでみると、なんと中身は「ウルトラマン@中国」と「中国国産特撮」についてのお話でした。
目次
第一章 映画大国化する中国
中国大陸の輸入映画事情 巨大映画大陸の誕生/1970~90年代の輸入映画/
規制緩和と興行収入の加速度的アップ/データで見る現代中国人の嗜好
第二章 ハリウッドは中国を目指す
中国に急接近するハリウッド/象徴的な『パシフィック・リム』の大ヒット
「中国要素」増量中/『トランスフォーマー/ロストエイジ』の憂鬱
第三章 中国人の好きなウルトラマン
温家宝首相が言及したウルトラマン人気/にわかに湧き上がるウルトラマン批判/
侵略者ウルトラマン? /四川大地震ウルトラマン秘話/
『ウルトラマンティガ』プロデューサー・笈田雅人に聞く、中国でのウルトラマン人気
第四章 中国SF特撮番組・映画の今
中国に撒かれた日本特撮の遺伝子/『金甲戦士』~初の国産特撮ヒーローの試行錯誤~/
『鎧甲勇士』シリーズ~中国版仮面ライダーの成功~/『巨神戦撃隊』シリーズ~中国版スーパー戦隊~
最終章 日本作品は上陸できるのか?
日本にとって近くて遠い、中国の映画市場/『ドラえもん』は中国人にとってもスーパーヒーロー/
『進撃の巨人』は長城を越えられるか?/日本産の新作ゴジラへの期待
もちろんタイトルが嘘八百というわけではありません。第一章は中国映画及び中国人の嗜好について。第二章は近年の米中(映画界)接近について。中国映画界の基本情報を手堅くまとめています。
ですが、その後は趣味が全開です。第三章では中国での絶大なウルトラマン人気から、温家宝前首相によるウルトラマン批判、ウルトラマンのマネをしてマンションから子どもが落下する事件が連発、四川大地震被災者とウルトラマンにまつわる心温まるエピソードまで網羅。ときおり心情がスパークする熱すぎる文体になっているところも注目です。
第四章では中国国産特撮について。その歴史から各作品のあらすじ、設定を愛情たっぷりに紹介しています。現在では仮面ライダー系、戦隊物系が隔年交代で放送されているのだとか。2008年秋に登場した、中国初の特撮ヒーロー「金甲勇士」は環境問題に焦点を合わせた作品で、北京五輪後に経済成長の弊害がクローズアップされる様は、日本の1971年前後、第二次怪獣ブームにかぶってみえる……といった分析もさすがです。
というわけで、中国映画業界の基礎情報と特撮情報の二つが味わえるという楽しい一冊。『映画は中国を目指す』、オススメです。
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