中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2016年01月04日
(中国人2人組が日本のお店で買い物したところ、日本語ができないだろうと侮られて大変無礼な扱いをうけた。実際には日本語がわかったのでクレームをつけたところ、お店の偉い人まで出てきて平謝りした……という話を受けて)
中国人に対して本当に失礼な態度をとる日本人店員、新宿や銀座で何度も目にしました。客観的に見て中国人観光客のマナーが悪いってのは理解できます。でもそれと店員の失礼な態度はイコールで結びつけていいもんじゃありません。日本人は自国のサービスレベルの高さをほこりにしてきたのに、膨大な数の中国人観光客を前にレベルの低下は明らかです。
なのに日本のメディアはどうやってサービスレベルを向上させるかという議論はしない。観光客の数の制限、レジの数を増やす、中国人に対する日本的マナーの啓蒙活動といった手段が考えられると思いますが。メディアが報じるのは中国人観光客に対するネガティブな印象だけ。かくして「礼儀なしの成金」という中国人観光客のステレオタイプなイメージが作り上げられました。
そういうステレオタイプがあるだけに、現場の店員さんにも「まじめに応対しなくていいや」という発想が生まれるのではないでしょうか。時々、中国人観光客に日本のサービスはどうですかって聞いてみるんですけど、「中国よりはいい」という答えが大多数でした。
このままいくと、日本にとっても中国にとってもマイナスです。日本は誇りとしてきたサービス水準を失い、中国人観光客は本来、日本で受けられるはずだったサービスを享受できない。さらに長期的に考えれば、日本は旅行業における優位性を失ってしまうかもしれません。それなのに、日本のメディアはこの潜在的リスクをまったく考慮していないように見えます。
過去1年、さまざまなきざしがありました。日本在住の中国人ジャーナリスト・蔡成平さんがタクシーの乗車拒否をされた事件、「中国人の当たり屋に注意」との張り紙が京都市の祇園に張り出された問題(実際には当たり屋でなく、本当の交通事故でした)などです。こういう中国人観光客がらみのトラブルが起きると、日本社会は「きっと中国人に問題があったのだろう」と決めつけ(そういうケースが多いのも事実ですが)、客観的に反省できなくなっているように感じます。
実際、私は銀座や新宿といった繁華街にもう行きたくありません。日本語が話せるのでわたし自身がぞんざいな扱いを受けることはありませんが、日本人相手と中国人相手で態度を変える店員を見ていると、心が寒々するからです。これは現場の人間の問題ではありません。日本サービス業全体で解決すべき構造的問題でしょう。
最後にちょっと、迂遠かもしれませんが大きな視点での話を。日本は「建て前」と「本音」をはっきりわける社会です。人権尊重や平等という建て前を守るがゆえに日本式サービスは成り立っている。本音を隠している虚構の世界だと批判する人がいるかもしれませんが、しかしその建て前がゆえにすばらしいサービスが担保されていることは誰も否定できません。ですが今、「建て前」と「本音」の境界線が揺らぎつつある、「本音」が表面に噴出しようとしているのではないでしょうか。あるいはこれこそが日本式サービスがダメになった原因なのかもしれません。