「日本ではいつから“中国経済はすごい”話がこんなに盛り上がっているの?!」
数日前、中国・雲南省に住む某アジアITライター・Yから愚痴のような、泣き言のような電話がかかってきた。
「もう20年近く中国事情をウォッチしてきたけどさぁ、最近中国が急にイケてるなんてことはないと思うんだよね。家電やIT機器だったら、前より商売苦しくなっているところのほうが多いかもしれない。それなのにさ、なんか日本のメディアを見たらさ、今まで中国のことなんか見向きもしなかったライターがわしゃわしゃ“中国スゲェ、中国スゲェ”って記事書いているし。ツイッターとか見てても“中国スゲェ中国スゲェ”って騒いでいる人がごまんといるし。いったいわいが気づかない間に中国に、日本に何が起こったんや……。」
と延々愚痴は続く。
「いや、中国は前から面白いじゃないですか。Yさんが記事で書きまくってきたことが伝わって、気づく人が増えたってことじゃないですか。」
「あと、“中国スゲェ話”全然広がってませんから。超狭い世界での話ですよ。こないだ、ウェブラジオの『聴く日経』に出演したんですが、聞き手になっていただいた株式アナリストの鈴木一之さんは“中国経済オワコン話を毎日シャワーのように浴びているので、高口さんの話は新鮮でした”とおっしゃってました。群盲象をなでるってやつですわ。Yさん、日本にいないから浦島太郎になってて、日本の話がよくわかってないだけっすよ。」
などなど適当に返していたのだが、なんだかー似ているかもしれないなーと思ったのが「中国ネットにおける“日本スゲェ”話」であった。
一時期、中国情報を紹介する日本ウェブメディアで「中国人が日本をほめたたえるネタ」が流行ったのをご存知だろうか。
「日本人の民度は半端ない。街路にはちり一つ落ちていない。」
「日本人はともかく優しい。」
「東日本大震災を見よ。すべての日本人は一糸乱れぬ行動を取り、一切の混乱は生じなかった。」
「日本で販売されている薬は厳しい審査基準をくぐり抜けている。飲んで3日で治らない風邪薬は販売を禁止されている。」
とまあ、「おまえ、本当に日本を見てきたのか?!」と問いただしたくなるような話がごまんと紹介されていた。この手の「外国人が日本をほめてくれるネタ」は結構アクセスを集めるので日本ウェブメディアが一生懸命捜しているという側面もあるのだが、実際に中国のウェブでも日本ぼめが流行していたように思う。で、気になるのはなぜ中国のウェブにこんな「現実離れした日本」が出現したか、だ。中国のネットを眺めたり、あるいはいろんな人にお話を聞いた結果、2パターンに分かれるのではと考えている。
(1)“日本に来てうれしかったよ”系:単純に海外旅行に来て日本が楽しかったので大はしゃぎしてネットに書いて、ちょこっと盛ってしまったパターン。
(2)“日本を使ってえらそうにしたい”系:「俺はすばらしい国・日本を知っている、日本ではこうだ!恐れ入れ!」と説教してマウンティングしたいという人や「日本はすばらしい。それに比べて中国は……」と政府批判したい人。現実の日本に興味があるというよりも、架空の日本をだしにするパターン。
である。まあ、我が日本を振り返ってみても「ドイツは**」「北欧は**」などなど他国をだしにして偉そうにする人はごまんといたわけで、中国の皆さんが海外旅行に行けるようになった今、日本人と同じ事をする人がいても不思議ではない。
でもって、Yさんが観測した「中国スゲェ」の人々も、ひょっとしたら「実際に目にした面白かったからその興奮を伝えたい人」と「架空の中国をだしにしてマウンティングしたり日本を批判したりしたい人」に分かれているのかもしれないな、とも思ったりしたのでした。
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