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ハイテク企業誘致に急ブレーキ!中国の地方ファンド規制の波紋

2025年01月18日

今や米国と並ぶ「イノベーション大国」となった中国ですが、スタートアップを支えるベンチャーファンド(VC)政策に大きな方向修正が加えられました。不動産下落や消費不況という厳しい経済状況が続く中でも、キラキラ輝いている中国のイノベーションにとっては打撃となりそうです。


DSC02256 (大)
*北京・清華大学のコワーキングスペース。

 

202517日、「政府投資基金の高い質の発展を促進する指導意見」が発表されました。国務院(日本の内閣に相当)の20251号文件です。1号文件というと、旧正月明けに発表される中国共産党中央のそれが有名です。ちなみに毎年、三農問題(農村、農業、農民)に関する文書が発表され、「中国共産党はこんなにも農民に心を砕いております」とアピールしています。国務院の1号文件はそこまでの重みはないものの、それでも政府が何を重視しているかを示す、一定の重みはあります。昨年はシルバー経済、一昨年は省庁間連携の効率化が取りあげられていました。

 

さて、中国では政府が出資した政府引導基金(政府系ファンド)がベンチャー企業に出資し、その発展を支えています。国が設立した半導体ファンド、通称「大基金」が有名ですが、それ以外にも省、市・県、区・鎮など下級レベルの自治体も大量の政府系ファンドを作っています。その数は20246月時点で2000以上、保有資金は45000億元(約100兆円)という巨大なものです。

 

中国の産業政策というと、補助金の話がよく出ますが、最近のトレンドは政府系ファンドに移っています。いくつか理由はありますが、地方政府にとっては自己資金以上に大きいお金を動かせるという魅力があります。というのもファンドを組成する時に自前の資金を使うだけではなく、銀行や地方国有企業などに共同出資を命じることができるから。共同出資なら債務ではなく、自由な形でお金を動かせるわけです。

 

その金で何をするのか。地元企業の育成にもお金を出しますが、それ以上に加熱しているのが「おらが街のハイテク企業」誘致。お金を出してイケてる企業を誘致します。有名なのが安徽省合肥市で、EVベンチャーのNIOを誘致し合肥に移転させました。当時、破綻寸前だったNIOは南京や重慶などの地方政府にも出資を持ちかけたそうですが断られ、大胆な賭けに出た合肥市に移転することにしました。その後のEV大躍進でNIOは一気に大企業に。「合肥に続け」は中国地方政府の合言葉になっています。


合肥モデル

 

地方同士が競争する中国、これはイノベーションにとってはプラスとの見方も強いです。イノベーションに必要なのは手数。いろんな地方が無数の企業に出資して、大量のベンチャーが育つ。そのベンチャーはばたばた潰れていくわけですが、残った会社はすばらしくエクセレントに育っている……というわけです。「多産多死」と呼ばれる方式です。

 

ところが、今回の政策文書では「企業誘致を目的に政府系ファンドを作ってはいけない」という文言が盛り込まれるなど、どうも風向きが違います。地方政府のファンドによって「生産能力過剰が生まれる」「低水準の重複建設が起きる」と戒めていますし、下層レベルの自治体がむやみに政府系ファンドを作ることも禁止しています。札束で叩いてハイテク企業を誘致するのではなく、その地方にあった、それぞれ独自の産業を育てるように変えなさいという内容なのです。


スタートアップ投資の金額・件数(117)
*『ピークアウトする中国』117ページ

 

ムダを省くという意味では正しそうですが、不景気で弱っている中国ベンチャーキャピタルには大きな打撃となりそうです。そもそも中国のベンチャーキャピタルは2017年をピークに資金流出が続いています。縮小するベンチャーマネーを支えてきたのが、「おらが街のハイテク企業」を狙う地方の政府系ファンド。これがなくなったら、誰が中国のベンチャーマネーを支えるのか。

 

民間の企業や投資家は中国経済の先行きを悲観しており、政府系ファンドが縮小してもその穴を埋めることは期待できないように思われます。

 

というわけで、1月公布の政策文書からみた中国イノベーションに変調のきざしについてお伝えしました。

 

ここで取りあげたトピック、地方間競争が中国経済にどのような影響をもたらしたのか、なぜ民間マネーは先行きを悲観しているのか、中国イケイケのハイテク産業はどのように中国政府に支えられてきたのか……これらについても大きな構造を117日に発売された、神戸大学の梶谷懐教授との新刊『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)で描いています。ご興味ある方はぜひご一読いただけたら。

 

『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』出版社サイト https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166614813

Amazon https://amzn.to/3E22ris

 
書影

 

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