中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2025年01月19日
こんにちは、ジャーナリストの高口康太です。中国自動車市場の光と影というテーマについてお話できたらなと思っています。
*「輸出世界一」「EV比率急上昇」「外資総崩れ」――中国自動車産業の現在地を読み解く3つのポイント:高口康太 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト https://www.fsight.jp/articles/-/50772
中国自動車市場というと、イケてる産業の代表格として見られているわけです。中国の自動車販売台数はですね、2017年ぐらいをピークに減少傾向にあったんですけれども、去年から回復に向かいまして、今年も増加しています。輸出台数はですね、この数年大きく伸びておりまして、去年日本を抜いて世界一となっています。しかもですね、未来の自動車、エコのためには必要不可欠と言われているEV、この販売台数の比率が全体の60%を上回る、世界でも圧倒的なリードをしている数字となっています。
*上海市、BYD販売店。
ここまでが光の話なんですけれども、じゃあ影ってあるのかいと。一つニュースをお話ししますと、2024年8月にですね、中国の大手自動車ディーラーチェーンの广汇汽车が上場廃止となりました。同社は2016年から2021年まではディーラーの販売台数が一位でした。2023年時点でも二位。まさに中国を代表するトップクラスのカーディーラー。なぜ同社が破綻したのか。いろんな理由があって、一つには、今実質破綻状態にある大手不動産会社の恒大集団がですね、立ち上げたEVブランドの恒大汽車に出資し、それが激しく焦げついてしまった。あるいは、カーディーラーの収入源の一つである車のメンテナンス、こちらがIT企業系のサービスに奪われたという。
日本でもビッグモーターの問題とかあったわけです。カーディーラーのビジネスは曖昧と言いますかブラックボックス。カーオーナーの知識不足につけ込んで怪しげな商売をやっている。ということに比べると、IT企業になって、評判であったりとか、あるいはどれぐらいの修理費用がかかりますよというのが、かなり明確に、透明性のある価格を見ることができる。中国では消費者の高い信頼を得ているわけです。古い時代の産業が淘汰されているという側面もあり、4S店と言われる中国のあの車の販売メンテナンス拠点は、どんどん減少を続けている。
*上海市、BYD販売店。
ただこれだけじゃなくて、中国カーディーラーの苦境は、車がどんどん安くなっていることも理由なんです。昨年8月、中国自動車流通協会がですね、2024年上半期のディーラーの経営状況に関する調査報告書を発表した。過半数のディーラーが赤字だと。その原因なんですけれども、最大の原因は自動車がどんどん安くなること。これ統計にもあらわれていまして、2024年1から11月の中国国内の自動車販売台数は3.7%増と増えている。ところが販売額は0.7%減少。掛け算すると一台あたりの価格が4%減っている。こちらは、あの統計上の価格なんですけれども、実際にはオプションパーツをただでプレゼントとか保険加入も込みにといった別の形での値引きも行われているので、この数字以上に値引きが進んでいる。
で、なんで安くなるのかというのが気になるところであります。中国の自動車が、EVが安いっていう話になると、すぐ補助金だからだろうと、という話が出てくるわけです。けれどもそれはあまり正確とは言いづらい。中国の政府が自動車にたくさん補助金を出していることは事実なんです。ただ、自動車購入補助金、一台あたりいくらという補助金は2009年からスタートして、その後どんどんと削減されてきて、2023年に廃止されています。で、中国でEVが売れるようになり出したのは2021年から、ま、補助金の最後の時なんですね。補助金がどんどん減っていく段階で、中国のEVの爆発的な成長が起きた。
*上海市、BYD販売店。
また、ナンバープレート規制、例えば上海とかだと自動車を購入する時にはオークションでナンバープレートを購入する必要がある。それが非常にお高い。そういった規制もあって、EVとかPHEVは規制を回避できるので追い風なんだという言い方もあります。けれどもこれも先ほど申し上げた通りです。売れるようになった2021年の前から、そういった優遇措置が設けられていたわけです。優遇措置プラス補助金があった時代にもあんまり売れなかった。けれども優遇措置プラス補助金が少なくなった時代に売れ始めた。そういった規制はEV、PHEVを買う一つの要因にはなるんですけれども、全てではない。
なんで安くなったんだという話になるんですけれども、考えるべきはライトの法則であります。セオドアライトが1936年に提唱したものなんですけれども、あの、ま、自動車業界における経験則ですね。累積生産量が倍増することに一定の割合でコストが低下すると。セオドアライトが研究対象としたT型フォードの場合は、販売台数が倍増するごとに15%でコストが削減されていた。これは自動車だけではなく様々な商品に当てはまるんですけれども、EVも例外ではありません。テスラも製造台数の増加に伴って製造コストはきっちりと削減されていくわけです。
中国でも作る数が増えていくにつれて製造コストは下がっていることが明らかになっています。中国EV最大手のBYDのレポートから分析したんですけれども、確かに年15%ぐらいのペースで製造コストが低下している。この数年はBYDは製造台数を前年比倍増ぐらいのペースで増やしているので、ライトの法則に当てはまる形の価格低下になっていった。この製造台数増加に伴うコスト低減、価格低下については、私と神戸大学の梶谷先生との共著『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』の第七章、殺到する仲介EVや中国の経済を救うのか?この章で詳しく説明しております。こちらを見ていただくと、中国政府が巨大な補助金を使ってEV市場を立ち上げ、その補助金によって大きく育った産業がどんどんコスト低減に成功し、補助金がなくなった後でも安さを実現できるようになった。人々が欲しいと思う車を作れるようになった。ということをルポと経済学の理論から説明しています。ぜひ読んで頂けましたら。
産業のエコシステムが一回生まれて好循環で回り始めると、もう補助金があるなし関係なくどんどん育っていく。他国の企業がここから追いつくことは難しい。昨年12月、トヨタ自動車が上海にレクサス工場計画を進めていると報道されています。なぜ上海に工場を作るか。上海を含む長江デルタ地域は中国EV産業の大きな産業集積地になっている。様々なサプライヤーが集積している。ので、今後ですね、トヨタがレクサスの電気自動車をですね、特に中国向けに製造を販売していく時には、こう、レクサスというブランド名を使ってても、中身は中国企業の部品で構成された車というのに変わっていくんじゃないかなと予想しています。
トヨタが今発売しているEVは、BYDのバッテリーなど中国系のシステムや部品を採用したわけですね。コスト低下や技術向上といった面ですごい進んでしまった中国企業に追いつくために、中国のサプライチェーンを日本の自動車メーカーが活用していく。そうなるんじゃないかというのが私の予想です。
繰り返しになりますけれども、私と梶谷先生の新刊『ピークアウトする中国』により詳しく、なぜ中国のEVがこんなに強いのか、安いのかっていう話も書いています。ぜひご覧いただければありがたいです。